Appleに学ぶコーディネーション能力

Appleに学ぶコーディネーション能力

藤沢氏お得意の炎上マーケティングに加担してるようで嫌なんですが、調度良いネタなのでこれを元に産業について語ってみたいと思います。

「基礎研究をしない癖に、美味しいところだけ取って儲けやがって」という批判は昔から存在します。しかし、ではなぜその研究をした会社が、真っ先にそれを商品化しないのでしょうか?

MacintoshのGUI

Macintosh

70年代の終り、ゼロックスの研究所を訪れた若きJobsは、「マウス」でグラフィカルに操作するインターフェイス(GUI)を見て感激し「これは凄い!商品化しないの?」と問うたといいます。するとゼロックスの社員は「商品化する金がないとか」とかなんとか。要は一般向けにこんなもの出しても売れないと思ってたようです。

そこでJobsはそのアイデアを社内に持ち帰り、後に発売するMacintoshにこのGUIを導入します。当時のコンピュータは基本的にキーボードでコマンドを入力することで操作していたのに対し、MacintoshはGUIを初めて一般に普及させたといえるでしょう。

ゼロックスが現在に繋がるGUIの成功を予見できていれば、真っ先に自分で商品化していたでしょう。しかし、しなかった。つまり、基礎研究をする能力と、その研究を商品化する能力とは別なのです。そして、どちらが高級でどちらが低級というものでもありません。

コピーする側からされる側に

時期は同じく80年代前半、隆盛を極めた日本の製造業は、それ故に日米貿易摩擦を引き起こしました。その時の米国の論調は「日本は米国の技術をコピーして儲けている」というものでした。まさに藤沢氏のアップル批判と同じですね。

アップルと違って生真面目な日本企業は、こうした批判を真摯に受け止め、その後基礎研究に精を出します。LIB,液晶ディスプレー、ソーラーパネルなど、今となっては日本は要素技術の宝庫です。

ところが商売の点では、後発の韓国や中国は勿論、米国企業にも「美味しいとこだけ持って行かれる」という、なんとも皮肉な現状です( 正確にはそればかりでもないのですが)。それでは、日本企業はかつてのコピー&商品化技術を取り戻すべきなのか?というと、もうその手は通用しないでしょう。

かつての日本企業の「パクリ」は主に、すでにある技術で製品を安く、かつ安定した品質で作ることでした。これは現在、韓国や中国の企業がやっている事であり、今更コストパフォーマンスで日本が対抗できるはずがありません。

「デザイン」とコーディネーションの重要性

一方のアップルの「パクリ」は、先ず魅力的な商品イメージがあり、それに必要な技術を世界中から集めて、全体として美しく纏める。言わばコーディネーション技術です。しかし日本の製造業は、この分野が苦手。今、コーディネーションで成功しているのはユニクロ位でしょうか?

iPadにしても「他社の技術の寄せ集め」などという人がいますが、果たして他のメーカーが同じようなものを作れたのでしょうか?

iPadが出る前のタッチパネル式PCというと、DTP用に従来の液晶モニターをタッチパネルに変えただけの、高価なWindowsパソコン位しか思い当たりません。画面を直接操作する便利さは実感したものの、この値段では普及はまだまだ先だなと思いました。

ところが程無く登場したiPadは、画面サイズこそ違うものの、ネットブックという廉価版ノートPCと同じくらいの価格でタブレットPCを出してきたのです。

その後出てきた類似商品達は、美しさも操作性も尽くオリジナルに劣る、正に劣化コピーでした。画面の美しさや、アイコンをクリックした時の反応、入力フォームにフォーカスすると直ぐに出てくるキーボードのレイアウトなど、iPadの優秀さが際立つだけでした。

iPad2になってしばらく経った今、ようやく操作感が近いAndroidベースのタブレットPCが出てきました。しかし、オリジナルから数年後に出てきた類似商品が、価格も機能もようやく追いついたでは情けない話です。

総じて、日本の企業はインターフェイスデザインの重要性を理解していません。ガラケーなんて、テンキーだけで情報端末を操作させるという発想が乱暴すぎます。手先が器用で忍耐強い日本人ユーザーに甘えています。一方で、カメラが何万画素とかメモリが何GBとかそんな数値ばかり競っています。

大体「デザイン」というものを単なる見栄えや装飾だと誤解してる人が多いですが、デザインは機能の表現です。そのへんを理解していない、というかセンスの無い人は、「アップル製品なんて他社の技術買ってきて、何となく見栄えよくしただけじゃないの」みたいな評価になるのです。

マーケティングではなく好き嫌い

ところで、Jobsの事を「マーケティングに秀でた」と表現する人がいますが、的外れだと思います。

マーケティングとは「F1層のライフスタイルが云々」と、消費者をマスとして捉える手法です。もっとぶっちゃければ、もっともらしいプレゼンで重役を説得する方法でしょうか。

ところが、アップルではJobs自身が一人のユーザーとして、好きか嫌いか?クールか否か?だけを追求たように見えます。この方法は簡単なようで、とても難しい。失敗した時の言い訳ができないし「本当にこれがクールと思うのか?」と常に自問自答する必要があります。

普通の会社なら、製造部門から「これでは作りにくい」とか、営業部門から「これでは売りにくい」とか色々注文が出て、それらを調整しながら商品の形が出来ていきます。これでは、何が狙いか判らない凡庸な商品になりがちです。しかし、もし結果的に販売は振るわなくても「皆で決めたことだから」と誰も責任を取らなくて済みます。言わば、社内の事情でできた商品です。

しかしそんな民主主義体制ではクールな商品は生まれないのです。それは個人の感性からしか生まれません。そもそも、全く新しい商品にマーケティングの手法は通用しません。過去のデータがないから。その点Appleは、創業者でカリスマで「いつ死んでも悔いがないように」と神がかった使命感を持つCEOが、独裁的に決定できたのは幸運で、極めて稀なケースだったと言えるでしょう。

世界はつながっている

結果として、アップルについていけなかったのは、日本企業だけではありません。HPもノキアもiPadやiPhoneのような製品を出せませんでした。

そこで思うのは、コーディネーションやデザインのセンスが無いのなら、無理に最終製品を作る必要は無いのではないか?と言うことです。要素技術が得意ならそれに特化すれば良いのではないかと。

例えば、iPhoneの部品の殆どはアジアから調達され、組み立ては中国で行われます。しかし、金額ベースで見ると、日本製の部品が他を圧倒してるというのです。ある記事によれば;

アイフォーン1台の輸出卸売価は、178.96ドル(約1万5000円)で、その内、中国が占める部品の割合は全体の3.6%で、わずか6.50ドルに過ぎず、日本が34%、ドイツ17%、韓国13%、米国6%と続き、ほかの国が、中国よりはるかに大きい比重を占めることがわかった。

ということで、実はアップル製品のヒットによって、日本企業は儲けているのです。なんか最終製品を作ってる企業だけが儲かってると考えるのは、昔っぽい発想ですね。まあ、中国人が「俺達が汗水垂らして作ってるのに。儲かるのはアップルと日本企業だけじゃねえか」と嘆くなら判りますが、少なくとも日本人は「アップルだけが美味しい美味しいところをとっている」とは言えないのです。所謂スマイルカーブってやつですね。

だから「Apple製品は人が苦労して開発した技術を合法的に盗んでいるだけだ」なんてのは恐ろしくレベルが低い話です。こんな事を書く人が有名ブロガーなんていったら日本の恥です。

・・・と真面目に反論を書いてる我々を見て本人は「ほらね、そうやって皆つられるんだよ。炎上マーケティングで成功してる僕も天才だね」とか思ってるかもしれません。しかし、同じ「人の知識の再構成」でも、センスが良いか悪いか、上品か下品かという違いはとてつもなく大きい…

これがそのまま、死んで惜しまれるJobsと、死んでも惜しまれないであろう藤沢氏との違いでしょう。

【追伸】

池田信夫氏がJobsについて書いてますね。僕の視点と近い事が、ある意味嬉しかった。かつての池田氏が戻ったような気がして。

「ジョブズの功績は、技術を世に出す上でのボトルネックが非技術的な部分にあることを認識していたことだ。」

「工業化社会では工程は複雑化し、組織は官僚化して、商品は凡庸になりがちだ。それを逆転して、個人的な思い入れを商品化できるサイズに企業の実質的な規模を小さくしたことが、彼の本質的なイノベーションだ。」

この辺りの視点、まとめ方は流石ですね。

元ソニーCEOの出井氏が先日、亡くなったJobsについて問われ「工場を持たない身軽さが羨ましい」みたいな事を言ってましたが、それより羨ましいのでレコード会社を持っていない事ではないでしょうか(^^ 大企業にとって真の敵はライバル企業ではない、それは自社の中にいる、といった所でしょうか。

ほんの10年ほど前、Jobsはソニーの事を「目標にしたいクールな企業」と持ち上げてたんですよね。当時ヒットしたVAIOをMacOS互換機にしないか?とすら言っていました。それが今のソニーは何たる体たらく…

クールな商品を出し続けるには、企業は大きくなってはいけないと本当に思いますね。多角化したり、無駄に生産設備を抱え込んだりしては絶対ダメ。その点、日本の電機や家電、自動車メーカは今岐路に立っています。なのに危機感がイマイチ薄い。

例えば、今やお荷物扱いされてる、ホンダの中・大型2輪部門(小型スクータやカブ系を除くスポーツバイクやクルーザー)を分離して、新たな独立企業として再スタートした方が良いんじゃないかと思います。そういう趣味性の高い商品は大組織でやってもまず成功しないので。

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